コラム
2024-01-10
クラウドインテグレーターの選び方。業者比較の6つの比較ポイントと注意点を解説
DXやAI、リモートワークなど、技術革新やビジネス変革が加速度的に進む今、企業にとってインフラ環境のクラウド化は選択肢の一つです。そこで、情報システム担当者の心強いサポート役になるのが「クラウドインテグレーター」です。
大手から中堅中小企業まで、さまざまなクラウドインテグレーターがある中、どのようにパートナーを選ぶべきでしょうか。
はじめに
企業の業務インフラや各社が提供するサービスのIT基盤は、従来のオンプレミスから脱却し、クラウドへの移行が進んでいます。
IT専門調査会社のIDC Japanが2024年6月に発表した調査結果では、2023年の国内クラウド市場の売上は、前年比29.6%増の7兆8,250億円。そして、2023年~2028年の年間平均成長率(CAGR:Compound Annual Growth Rate)は16.3%で推移し、2028年の市場規模は2023年比で約2.1倍の16兆6,285億円にのぼると予測されています[*1]。
柔軟性・拡張性の向上や、管理の効率化、コスト削減など、さまざまな恩恵を受けられるクラウド活用の波は今後も続くでしょう。そこで重要な役割を担うのがクラウドインテグレーターです。今回は、クラウドインテグレーターの役割から、比較のポイント、委託する前の注意点まで詳しく解説します。
クラウドインテグレーターの役割
はじめに基礎知識として、クラウドインテグレーターの役割を整理しておきましょう。
クラウドインテグレーターとは?
クラウドインテグレーターとは、クラウドシステムの導入・運用を総合的に請け負う企業のことを指します。一般的に、顧客から情報システムの企画、構築、運用などの業務を一括して請け負う企業を「システムインテグレーター」と呼びますが、その中でもクラウドに特化しているのがクラウドインテグレーターです。クラウドインテグレーターは、企業のニーズに合わせてクラウドの設計や構築、導入、運用保守などを行います。
クラウドインテグレーター・クラウドベンダー・SIerの違い
クラウドインテグレーターとともによく聞かれるのが「クラウドベンダー」や「SIer(エスアイヤー)」ですが、それぞれ意味が異なります。
クラウドベンダーとは、クラウドサービスおよびクラウド基盤を提供する事業者のことを指します。代表的な事業者として、アマゾンウェブサービス(以下、AWS)、Microsoft Azure(以下、Azure)、Google Cloud、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)などが該当します。このようないわゆるメガクラウドと呼ばれる海外クラウド以外にも、国内企業が提供する国産クラウドを提供する事業者もクラウドベンダーです。
クラウドインテグレーターは、クラウドベンダーが提供するクラウド上に、企業の要望に合わせて、システムの設計・構築・運用保守サービスを提供します。
SIerとは、前述した「システムインテグレーター」の略称です。従来のオンプレミスの情報システムを専門とする企業を示す際にあえてSIerという言葉を使い、その対比としてクラウドインテグレーターのことをCIer(シーアイヤー)」と呼ぶこともあります。
比較の前にやるべきこと
クラウドインテグレーターの比較を始める前に、自社の現状のシステム環境を把握し、要件を整理することが重要です。
現状のシステム環境の把握・課題整理
まずは、現在使用しているハードウェアやソフトウェア、ネットワークなど、システムの全体像を詳細に把握し、課題や問題点を明確にしましょう。
要件の明確化
整理したシステム環境の課題を踏まえ、クラウドインテグレーターに依頼する要件を明確化します。
事前に明確化する要件
- 対象システム
- 目標設定
- クラウド基盤
- 委託範囲
- セキュリティ要件
- 予算計画
対象システム
まずはクラウド上に構築する対象システムを決めます。一度に複数のシステムを導入しようとすると、その分リスクも大きくなります。全体最適のゴールを見据えた上で、フェーズを分けて段階的に進めていくことが重要です。
目標設定
対象のシステムが確定したら、何をどのくらい改善したいのか、期待する効果の目標設定をします。業務効率化やコスト削減、管理の簡略化、リモートワークの推進、従業員や顧客のエンゲージメント向上など、現状把握で浮き彫りになった課題に合わせて指標を選択しましょう。
クラウド基盤
また、どのクラウド基盤を採用するかも必要に応じて考慮しておくと良いでしょう。例えばAWSは、クラウド導入のイニシャルコストを抑えられることや、データセンターが世界中にあるためグローバル展開に適しているなどのメリットがあります。一方で、従量課金制のため毎月の利用コストが変動する点はメリットにもデメリットにもなり得ます。そのほか、安心感を重視するなら日本語のサポートが充実している国産クラウド、社内がWindows環境で管理者の負荷を軽減したいなら、ADに関しての機能も豊富なAzureを選択するなど、さまざまな視点を考慮してクラウド基盤を選びましょう。
委託範囲
さらに、データ移行や設定変更、障害対応など、どの業務をクラウドインテグレーターに委託し、どの業務を自社で行うかも明確にしておく必要があります。
セキュリティ要件
そのほか、ウィルス対策や、WAF・IPS・IDS、サーバ・データのアクセス権限管理、バックアップなどについて、自社のセキュリティポリシーに合わせてセキュリティ要件もまとめておくことも重要です。
予算計画
最後に、イニシャルコストだけでなくランニングコストも含めた予算の計画も必要です。なお、国や自治体が用意する補助金制度を利用できる場合もありますので、Webサイト等でチェックしておきましょう。
クラウドインテグレーターの選び方~6つの比較ポイント
要件が明確になったら、委託するクラウドインテグレーターを選びます。その際、業者を比較する6つのポイントを一つずつ解説します。
クラウドインテグレーター6つの比較ポイント
- 実績・経験
- 対応クラウドと委託可能な範囲
- コストとスケジュール
- 担当者のスキル・組織力
- 企業の信頼性とセキュリティ対策
- SLA
1. 実績・経験
クラウドインテグレーターが過去にどのような企業のプロジェクトに関わってきたのか、実績や経験を確認しましょう。その際、Webサイトに掲載されている取引実績や成功事例はもちろんのこと、企業のITインフラという特性から、事例として公表していないケースも多々あります。自社と類似する業界や規模で実績があるか、直接クラウドインテグレーターに問い合わせて確認しましょう。
2. 対応クラウドと委託可能な範囲
クラウドインテグレーターは、「特定のクラウド基盤を専門とする企業」と「複数のクラウド基盤に対応できる企業」の大きく2種類に分類されます。例えば、要件を明確化する段階で、AWSの利用が必須であることが確定している場合はAWS専門のクラウドインテグレーターに依頼するのも一つの選択肢です。特にない場合、複数のクラウド基盤に柔軟に対応できるクラウドインテグレーターに相談をすることで、ニーズに合わせて最適なクラウド基盤を選定してもらうことができます。
長期的な視点で考えると、将来的にクラウド基盤の乗り換えや、ハイブリットクラウドでのバックアップ環境構築を検討する可能性もゼロではないでしょう。複数のクラウド基盤に対応できるクラウドインテグレーターに依頼していれば、そうしたときにも現状のシステムを良く理解した上で任せることができ、安心です。
また、クラウドインテグレーターによって、対応可能な範囲も異なります。前述した「データ移行や設定変更、障害対応など、どこまでをクラウドインテグレーターに委託するのか」といった要件をもとに、対応できる企業を選びましょう。
3. コストとスケジュール
イニシャルコストやランニングコスト、追加料金などのコストや導入までの期間もクラウドインテグレーター選定の重要なポイントです。例えば費用が安価でもサービス提供範囲が狭く、自社で対応しなければならない業務の範囲が広くなると、社内の工数が増える場合もあります。また、どこからがオプション費用として上乗せされるのかも注意が必要です。見積を依頼する際に、どの業務まで含まれている費用なのかを確認すること、またイニシャルコストとランニングコストを踏まえて長期的なコストを比較することも重要です。
4. 担当者のスキル・組織力
クラウドインテグレーターとの商談の段階で、営業担当のレスポンスのスピード感や、組織としてのバックアップ体制などが見えてくるはずです。窓口となる営業担当やエンジニアの対応力および提案力を見極めることが重要です。また、社員の入れ替わりが多い企業で、個人依存型のサポート体制になっていると、サービスレベルが低下するリスクもあります。会社の規模などの情報も踏まえ、組織全体として信頼できる企業を選びましょう。
5. 企業の信頼性とセキュリティ対策
クラウドインテグレーターを比較する際、「潰れない会社」「事故を起こさない会社」を選ぶことも大切な視点です。企業の社歴や財務状況も判断材料になります。また、会社としてセキュリティポリシーやルールが整備されているか、ISO27001やプライバシーマークを取得しているかも確認しましょう。
6. SLA
冗長性や可用性、稼働率、保守サポートなど、サービスの品質保証レベル(SLA)も確認した上で、自社に最適なクラウドインテグレーターを選びましょう。
委託前の注意点
クラウドインテグレーターに正式に発注する前に次の注意点を確認し、方針や詳細な契約内容を決定しましょう。
特定のクラウド基盤に依存し過ぎない
特定クラウドベンダーの独自サービス(OS、データベースなど)に過度に依存しすぎないよう、配慮しておくと良いでしょう。各クラウドベンダーともに独自サービスの開発に力を入れており、高可用性で性能が高く、魅力的ではありますが、互換性が低い場合に移行が困難になるケースがあります。
リスク分散およびコスト最適化の観点から、マルチクラウド戦略を検討することもおすすめです。特定のクラウド基盤内で冗長構成を構築するなどのリスク分散は一般的によく取られる手法ですが、それでも避けきれない大規模障害が起こり、業務に影響を与えることも起こりえます。また、メインのクラウド基盤のデータバックアップは低コストで運用できる別のクラウド基盤を利用するなど、マルチクラウド構成によるコスト最適化を図ることもできます。マルチクラウド構成も視野に入れて、クラウドインテグレーターと相談すると良いでしょう。
隠れたコストや追加料金
早々に予期せぬ追加料金が発生するような事態にならないよう、発注前に費用とサービス範囲を明確にすることが重要です。追加コストが発生する条件も確認しましょう。補助金を利用する場合、その分のコストを上乗せされるなどの不適正な価格設定ではないかも注意したいところです。複数の業者から相見積を取得し、サービス内容と価格の設定が適切であるかを比較しましょう。
保守サポートの確保
クラウドインテグレーターに運用や保守を任せる場合、保守対応の窓口が24時間体制なのか、平日のみなのかも確認すべき重要なポイントです。特に顧客向けのシステムの場合、障害時のリスクを最大限抑えるため、24時間体制の手厚いサポートが求められます。サポートの受付方法や受付時間、作業範囲、契約期間を明確にした上で契約しましょう。
契約条件の確認
契約締結後のトラブルを防ぐために契約書も入念に確認しましょう。契約の有効期限と満了後は自動更新か手動更新か、また、更新時にサービス内容や料金体系に変更があった場合に既存の契約内容が維持されるか変更になるのかも重要なチェックポイントです。さらに、契約を解除する際の条件、特に解約手数料や必要な通知期間、データの引き渡し方法なども確認しましょう。
まとめ
クラウドインテグレーターは、自社のニーズや要件に合わせて慎重に選ぶ必要があります。特に、商談中のレスポンスの早さやサポートの丁寧さなども良いクラウドインテグレーターを選ぶ重要なポイントです。中には、課題整理から一緒になってアイデアを出してくれる、伴奏型のクラウドインテグレーターもいます。
紹介した6つの比較ポイントを参考に、自社にとって最適なクラウドインテグレーターを見つけてください。そして、長期的に企業のインフラ整備やクラウド化・DXを支援してもらうことができる、良好な関係を築くことができると良いでしょう。
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クラウドインテグレーターの選び方
クラウドシステムの導入・運用を総合的に請け負うクラウドインテグレーターを選ぶ際の6つの比較ポイントを解説します。