コラム

2026-09-01

ゼロトラストネットワークとは?導入手順と運用の実践ポイントを徹底解説

ゼロトラストネットワークとは?導入手順と運用の実践ポイントを徹底解説ゼロトラストネットワークとは?導入手順と運用の実践ポイントを徹底解説

ゼロトラストネットワークは「決して信頼せず、常に検証する」という考え方をもとに、社内外の区別なく全てのアクセスを検証する仕組みです。この記事では、その基本から導入手順、運用のコツまでを順にお伝えします。

  • ゼロトラストは境界型防御に代わる新しい考え方で、NIST SP 800-207が基本原則を示しています。
  • ID、端末、通信制御、ログという4つの要素を組み合わせて構成します。
  • 資産の棚卸しから始め、段階的にネットワーク環境へ移行するのが現実的です。
  • 運用では継続的な監視と、共同SOCなどの体制づくり、職員の意識変革が鍵になります。

ゼロトラストネットワークの基本概念

「決して信頼せず、常に検証する」原則

ゼロトラストは、社内ネットワークだからといって無条件に信頼しない考え方です。原則の根本にあるのは「決して信頼せず、常に検証する」という姿勢で、リソースへの全ての要求について、出所を問わず継続的な認証、認可、検証を求めます。最小権限アクセス、マイクロセグメンテーション、リアルタイムなポリシー適用によってセキュリティを高める設計です[※1]。サイバーセキュリティに関する国の基準では、ゼロトラストアーキテクチャは組織内外を問わずネットワークは常に侵害されているものであるとの前提のもと、情報資産を保護し、情報セキュリティリスクの最小化を図る論理的・構造的な考え方です[※2]

つまり、内部だから安全という前提を捨て、アクセスのたびに確認する運用へと切り替えることが出発点になります。

境界型防御との違い

境界型防御とゼロトラストでは、信頼の置き方が根本的に異なります。

従来のネットワークセキュリティは「区画」の考え方に依存しており、いったんデバイスが中に入れば、その後は内部のデータやアプリケーションに自由にアクセスできる設計でした。この区画型の発想は、業務が建物やキャンパスといった単一の場所に収まっていた時代に生まれたもので、複数の内部ネットワーク、クラウドサービス、リモートワークが混在する現在では単一の区画そのものが存在しなくなっています[※3]。一方でゼロトラストは、場所に関係なくセッション単位で最小権限アクセスを課すことで、内部者による脅威、ネットワーク内の横方向への侵入、持続的標的型攻撃への耐性を高めます[※1]

この違いを踏まえると、境界の内側を安全地帯とみなす前提を見直し、アクセス単位で判断する仕組みへ寄せていく必要があります。

NIST SP 800-207が示す7つの基本原則

ゼロトラストを設計する際の土台となるのが、NIST SP 800-207が示す以下の7つの基本原則です[※1]

  • 全てのデータソースと計算サービスをリソースとみなすこと
  • ネットワークの場所にかかわらず全ての通信を保護すること
  • 個別のリソースへのアクセスはセッションごとに付与すること
  • 観測可能な属性に基づく動的ポリシーでアクセスを判断すること
  • 全ての資産のセキュリティ状態を継続的に検証すること
  • アクセス付与前に厳格な本人確認を行うこと
  • 環境データをリアルタイムに収集して適応的な判断を支えること

これらは単独ではなく相互に支え合う原則です。自組織の設計方針を点検するチェック軸として使うと理解が進みます。

ゼロトラストが求められる背景

クラウド利用とテレワークの拡大

働き方と業務システムの置き場所が変わったことが、ゼロトラストが必要とされる大きな理由です。かつては単一の建物の中に全ての電子資産を置き、それらの間にファイアウォールを構築して外側のインターネットから遮断できました。しかし今では、遠くの都市からリモートワーカーがログインし、データセンターとは別の場所で動くクラウドベースのソフトウェアが業務を支えており、従来型のアプローチではうまくいかない場面が増えています[※3]。総務省の資料では、境界型防御のみに依拠しない、ゼロトラストアーキテクチャの考え方の導入が必要とし、より高いセキュリティと柔軟な働き方の両立が実現できるとしています[※4]

働く場所や利用サービスが分散している以上、ネットワークの外側と内側を区切って守る発想では追いつかなくなっています。

サイバー攻撃の高度化と内部脅威

攻撃の性質が変わり、境界の内側にも脅威が入る前提が求められるようになりました。実際に、情報処理推進機構(IPA)が公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織における脅威として「ランサム攻撃による被害」が1位、「機密情報を狙った標的型攻撃」が5位に挙げられているのに加え、「内部不正による情報漏えい等」も7位に入っており、外部からの攻撃と内部に起因する脅威の双方が上位を占めています[※5]。ゼロトラストは境界中心のモデルと異なり、内部脅威、横方向への侵入、持続的標的型攻撃に対する耐性を持ち、外部と内部の双方の攻撃に対する保護を本質的に高めます[※1]

侵入を完全に防ぎ切ることを前提にせず、入られた後の被害拡大を抑える発想が重要になります。

境界型モデルの限界

境界型モデルは、業務環境の変化に追いつけなくなっています。単一の場所にリソースを集めて外周をファイアウォールで守る前提が崩れ、複数の内部ネットワーク、クラウド、リモートワークが混在する状況では、単一の区画そのものが存在しなくなっています[※3]。総務省によると、ゼロトラストアーキテクチャはネットワーク内外を問わず全てのアクセスを適切に制御する考え方であるとまとめられ、境界だけに依存しない設計の必要性を明記しました[※4]

境界そのものが曖昧になった以上、内側の通信も含めて検証する仕組みへ移行することが避けられません。

ゼロトラストネットワークを構成する要素

ID・認証管理

ゼロトラストネットワークの入り口となるのが、IDと認証の管理です。総務省によると、自治体がゼロトラストアーキテクチャの考え方を導入するにあたっての必要最低限の要素の一つとしてID・認証管理を挙げ、職員がシステムを利用する際には多要素認証を必須とするとともに、管理者権限を持つ特権IDについては作成、変更、停止、廃止まで含めて厳格にライフサイクルを管理することを求めました[※4]

認証は一度きりの関門ではなく、権限が生まれてから消えるまでの全期間を管理する対象としてとらえる必要があります。

端末管理とEDR

ネットワークにつながる端末の状態を把握することも、ゼロトラストの土台になります。総務省は、端末管理として、全ての業務用端末を一元的に管理し、セキュリティ更新プログラムの適用、端末内データの暗号化、必要な設定の統一化を自動的に実施できるようにすることを挙げました[※4]。ほか、デジタル庁の実証では、北海道庁および規模・利用モデルの異なる道内7市町村が参加し、IdP・MDM・EDR・SASE(ZTNA/DLP/セキュアブラウザなど)を組み合わせたゼロトラスト構成の動作検証を行っています[※6]

端末の把握とEDRなどの検知機能は、認証と並んで日常的な運用の中心になります。

通信制御とSASE/ZTNA

実際に文部科学省は、ゼロトラストセキュリティに関する要素技術のうち通信の安全性に関するものとして、第三者に通信内容が盗み見られることを防止する通信経路の暗号化と、マルウェアへの感染につながりうるセキュリティリスクの高いWebページへの接続を防止するWebフィルタリングを挙げ、多要素認証や端末管理などと合わせて導入することが、どのような自治体においても必須であるとしています[※7]。こうした通信制御をクラウド上のサービスとして一体的に提供する仕組みがSASEであり、利用者や端末を確認したうえで必要なシステムだけに接続を許可する仕組みがZTNAです。

ネットワーク経路の制御は、クラウド上の対策やエンドポイントの対策と組み合わせて初めて意味を持ちます。

ログ・監視

日々のアクセスを記録し、後から追える状態にしておくこともゼロトラストの構成要素です。総務省によると、有効性を評価・検証するために、アクセス要求の都度、認証管理や端末管理の状態に基づき、利用者本人であることや利用端末の安全性等を確認し、その操作が事前に定義されたポリシーに適合しているかを動的に判定するとしました。あわせて、認証管理については、当初から高度な分析を前提とするのではなく、まずは有事の際に「誰が、いつ、何を行ったか」を確認し、説明できるよう、必要な記録を保全・集約できる状態を確保することを求めました[※4]

ログは分析基盤を整える前段として、まず取得と保全の体制を作ることが実務の出発点になります。

導入手順とロードマップ

情報資産の棚卸しと現状把握

ゼロトラストの導入は、自分たちが何を持っているかを知るところから始まります。デジタル庁によると、ゼロトラストアーキテクチャ導入には自団体内のリソース把握が重要になりますが、現状のリソースを把握しきれていない団体が多く見受けられました。そして、把握には多くのコスト・工数がかかることが想定されます[※6]。従来の防護からゼロトラストへ切り替えるには多くの変更が必要で、誰が、何のリソースに、なぜアクセスしているのかを理解する必要があるという指摘もあります[※3]

リソースと利用状況の可視化は、後続のポリシー設計やアクセス制御の精度を大きく左右します。

ポリシー設計とアクセス制御ルール

技術より先に、ポリシーの再設計が必要になる場面が多くあります。デジタル庁が推進する、国・地方ネットワーク検証事業の例によると、従来の「境界型防御(三層の対策)」を前提としたセキュリティポリシーではネットワークの場所を信頼の根拠としており、ゼロトラストアーキテクチャが前提とする「場所を問わない動的な認証・認可」を許容する規定が整備されていません。そして、技術的な実装以上に、物理的な境界に依存しない新たなセキュリティ基準をいかに定義するかが最大の障壁であり、対応策として全国の自治体で標準化された「ゼロトラスト対応型ポリシーモデル」を策定・適用することを挙げました[※8]。また、検証されていないポリシーは不正アクセスにつながる可能性があり、ゼロトラストの安全性はポリシーによって管理されることが指摘されています[※9]

ポリシーは製品導入の前提であり、ここが曖昧なまま製品を並べても効果は限定的になります。

段階的な移行アプローチ

ゼロトラストへの移行は、一足飛びではなく段階的に進めることが現実的です。組織の規模やリソースの制約から、一度に全てを刷新することは難しく、複数段階を経て段階的に導入することが有効です。デジタル庁は、団体規模に応じて、インターネット接続を分離するαモデル→多要素認証やデバイス管理を加えたβ'モデルとIdP(アイデンティティプロバイダー)・MDM(モバイルデバイス管理)の導入→完全なゼロトラストアーキテクチャと段階的に移行するか、あるいは組織の準備が整っていれば直接ゼロトラストアーキテクチャに移行するかを選択可能にすることが有用としています[※6]

自組織の規模とリソースにあわせて、段階的な移行と直接移行のどちらが適しているかを判断していくことになります。

運用の実践ポイント

継続的な監視とインシデント対応

ゼロトラストは導入して終わりではなく、継続的な監視が運用の中心となります。サイバーセキュリティに関する国の基準では、情報システムセキュリティ責任者は、動的なアクセス制御の実装に当たり、リソースの信用情報の変化に応じて動的にアクセス制御を行うためのアクセス制御ポリシーを作成すること、そしてそのポリシーに基づき動的なアクセス制御を行うことを定めました[※2]。総務省が示すある自治体の事例では、インターネットからの不正なアクセスの遮断などにおいてファイアウォール15.1億セッション/月、IPS201万セッション/月、メール添付のマルウェアの削除6,988件/月、スパムメール判定347万件/月、振る舞い検知機器による不審なファイル検知1,764ファイル/月、URLフィルタによる不審なサイトへのアクセス遮断2,615万セッション/月が記録されました[※10]

膨大なイベントを継続的にさばく前提で、ポリシー、検知、対応の3点を回し続ける運用が必要になります。

共同SOCと運用体制の構築

中小規模の組織ほど、単独で監視体制を維持することが難しくなります。デジタル庁は、SOCの運用やセキュリティマネジメント体制、リテラシー向上の研修等における職員リソースの確保や各種費用の捻出が課題であるとし、国や都道府県によるSOCの共同運用や国等からの財政的な支援を期待するとまとめました。また、複数自治体による共同調達、共同運用、都道府県による体制検討、国レベルでの組織づくり(J-LISなどに相当するもの)など、特に中小規模自治体が導入できるような仕組みの継続検討が重要になります[※8]

自団体だけで抱え込まず、共同運用や外部との連携をどこまで組み込むかを設計段階から検討することが有効です。

人材育成と意識変革

ゼロトラストを回すには、技術と同じくらい人の意識を整えることが欠かせません。総務省は、自治体においてはゼロトラストアーキテクチャの考え方に関する知見が不足しており、自治体職員のセキュリティに対する意識醸成・意識変革が必要な状況であるとしました。あわせて、変化を望まない管理職層や、DX推進部門と対面業務が主体の現場部門との意識の差が存在すること、ID管理やIT資産管理が部局・業務ごとに分かれ、各システムの担当者が個別に設定を行っており、一元的な把握や取り組みの実施が困難であることを挙げました[※4]

組織横断の情報共有と、階層ごとの理解を揃える取り組みを、導入計画と並行して進める必要があります。

導入事例に学ぶ実装のヒント

自治体におけるゼロトラスト実証

自治体の実証事例からは、複数の技術を組み合わせて検証する動きが見えます。デジタル庁によると、リモートブラウザ分離ベースのゼロトラスト環境の導入において、マイナンバー情報等機微な情報に対する情報漏えい対策の検知精度に課題があることが分かっています。あわせて、一般的なセキュリティソリューションを利用した接続では、現行以上のセキュリティレベルを技術的には確保することが可能と整理されました[※11]

技術的な可否と、機微情報の扱いに関する課題を切り分けて評価する姿勢が参考になります。

教育現場でのゼロトラスト活用

教育現場でも、ゼロトラストの考え方を取り入れた事例が出てきています。例えば府中市では、学習系と校務系を分離した境界分離型のネットワーク構成を課題にしていました。教員は2台の端末が必要なうえ、校務系ネットワークは職員室でしか使えない状況でした。学習系と校務系のデータのやり取りもUSBメモリ経由に限られていましたが、新ネットワークではフルクラウド化し、教員の端末を1台に集約、校務でも授業でも無線LANを利用できるようにし、認証は顔認証とPINによる多要素認証とし、SASEで校内外から安全にアクセスできるようになりました[※12]。他にも、埼玉県新座市では、教育ネットワークのゼロトラスト・フルクラウド化を紹介し、多要素認証として生体を含む常時二要素認証と無操作時画面ロック、シングルサインオンとして校務システム登録情報を源泉とする統合ID管理ソリューションや、複数の主要クラウドサービスを併用しています[※13]

端末集約と認証統合が、業務効率と安全性の両立に直結していることが読み取れます。

導入時の注意点と失敗を防ぐ視点

コストと人的リソースの課題

ゼロトラスト導入では、費用と人手の確保が最初の壁になります。デジタル庁は、特に小規模団体においてはコストに関する懸念が強いことを確認したとし、基盤の共同利用によってコストの最適化を図ること、ゼロトラスト環境への移行についてコストメリットや必要性の根拠を明示すること、助成金などの補助を整える必要があることを挙げました。また、団体によってはゼロトラスト環境における製品を使いこなすための人的リソースが不足しており、共同運用によって業務を集約化し、外部ベンダーにて運用することで団体の負荷を軽減させるとしました[※6]

単独調達に固執せず、共同利用や外部委託を含めて費用対効果を検討することが現実的な選択肢になります。

レガシーシステムへの対応

古い業務システムの扱いは、ゼロトラスト移行で見落とせない論点です。デジタル庁は、IE依存やActiveXを利用する既存業務システムに対し、VDI(画面転送)とセキュアブラウザを併用した検証において、マイナンバー利用事務系・LGWAN接続系業務システムの多くが特定ののブラウザでは動作せず、完全なブラウザ化は困難であることが判明したと明記しました[※6]

既存資産の技術的制約を早期に洗い出し、代替手段や併存の設計を検討しておく必要があります。

OT環境での特有の制約

制御系のOT環境では、ITとは異なる制約を踏まえて設計する必要があります。OTシステムはITシステムと異なり、センサー、アクチュエータ、ロジックソルバー、ユーザーインターフェイスといった複数の層があり、物理的な製品、サービス、資源を実時間で提供するために連続稼働することが多いという可用性要件があります。また、レガシーOT機器のセキュリティ対策が歴史的に不足してきた点と、その長いライフサイクルが本質的な脆弱性を生み出しており、攻撃者に悪用されるケースが増えていることも指摘されています[※14]。ゼロトラストは特定の技術や技術群ではなく、データ侵害の防止とネットワーク内の横方向への移動の制限を目的としたセキュリティ戦略であり、その考え方を「決して信頼せず、常に検証する」という言葉で表現することができます[※15]

OT環境では戦略としての原則を保ちながら、可用性と既存機器の制約にあわせて具体化することが求められます。

おわりに

ゼロトラストネットワークは、境界の内側を信頼する前提を捨て、アクセスのたびに検証する考え方へと切り替える取り組みです。技術の導入だけでなく、資産の棚卸し、ポリシーの再設計、段階的な移行、そして継続的な運用までを含む一連のプロセスとして進めることがポイントです。

事例に見られるように、共同運用や外部との連携、そして人材育成を組み合わせることで、中小規模の組織でも現実的な導入が見えてきます。自組織の現状に合った出発点を選び、少しずつネットワークのあり方を見直す際の参考になります。

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