コラム
2026-10-13
ネットワーク機器の老朽化サイン3種類、更新タイミング判断チェックリスト


ネットワーク機器の老朽化は、次の3種類のサインで見つけます。
- サイン1:ベンダーから届く製品の販売終了・保守終了の通知(EOL:End of Lifeなど)
- サイン2:通信の遅延やパケットロスなど、性能面の劣化
- サイン3:故障の増加、発熱、頻繁な再起動など、物理的な予兆
サインを見つけた後の更新判断は、保守終了・性能・故障・セキュリティ・事業要件の5観点を各0〜3点で採点し、合計点をあらかじめ決めたしきい値と比べて行います。その前提として、経過年数は減価償却のための税務・会計上の耐用年数ではなく、稼働開始日からの実運用年数で管理します。更新を決めた後、複数拠点に設置したネットワーク機器を入れ替える場合は、拠点ごとに優先順位を付けて段階的にリプレイスします。
ネットワーク機器の耐用年数と老朽化の基礎
耐用年数と老朽化は別の概念です。減価償却のための年数を過ぎたかどうかではなく、業務に必要な水準を満たせているかで判断します。
会計上の耐用年数と実運用上の寿命の違い
耐用年数には、減価償却のために税務・会計上で定める年数と、実運用でどこまで使えるかという寿命の2つがあります。前者は資産を何年で費用化するかを決めるための年数であり、機器が何年使えるかを保証するものではありません。この2つはしばしば混同されますが、更新計画では分けて考える必要があります。
例えば米国の国家電気通信情報庁(NTIA)は、ブロードバンド補助金事業の資産管理の目安として、スイッチング機器やアクセス用ルーター、伝送機器の推定耐用年数を7年、家庭側のケーブルモデムや無線モデム、ルーターなどの宅内機器(CPE)を3年としています[※1]。
日本の法定耐用年数でも、国税庁の耐用年数表では、パーソナルコンピュータ(サーバー用のものを除く)は4年、その他の電子計算機は5年、電話設備その他の通信機器のうちその他のものは10年と区分されており、機器の種類で差があります[※2]。
これらの年数は、あくまで資産管理や償却のための目安です。実運用では、故障率、性能不足、ベンダーの保守終了などが重なる時点が本当の更新タイミングになります。
経過年数を数える起点も決めておきます。NTIAの目安では、資産が実際に供用された時点から数え始めるとされています[※1]。台帳には購入日や納品日ではなく、稼働開始日を残します。
会計上の年数が過ぎていなくても、業務に支障が出れば更新を検討する必要があります。逆に年数を過ぎていても健全に稼働している機器はすぐには止めない、という柔軟な判断が求められます。
老朽化の定義と機器種別ごとの寿命観
老朽化とは、機器が本来の性能や信頼性を維持できなくなった状態を指します。単に古いだけではなく、業務に必要な水準を満たせなくなった時点で老朽化ととらえるのが実務的です。
国税庁のLAN設備の耐用年数に関する質疑応答では、ハブやルーター、リピーターは「電話設備その他の通信機器」、サーバーや端末機は「電子計算機」として別に区分され、LAN設備を構成する個々の減価償却資産ごとに耐用年数を判定することが原則とされています[※3]。NTIAの目安でも、無線基地局やアンテナ、CMTSやDSLAMなどのネットワーク機器は同じ7年です[※1]。
7年という目安は、7年で必ず壊れるという意味ではありません。ただし、無線アクセスポイントや小型ルーターは常時稼働で熱とほこりにさらされるため、早く傷むこともあります。機器種別ごとの寿命観と拠点ごとの設置環境をあわせて見直すことが、老朽化を早めに察知する第一歩です。
老朽化サイン3種類
老朽化のサインは、ベンダーからの通知、性能の劣化、物理的な故障の予兆の3種類に整理できます。どれか一つではなく、3つを並行して確認します。
サイン1・販売終了・保守終了の通知
最初のサインは、ベンダーから届く販売終了・保守終了の通知です。製品がサポート対象から外れることを意味し、放置するとセキュリティと運用の両面でリスクが増加します。
通知で使われる用語のうち、EOL(End of Life)は、製品やバージョンがサポート対象から外れることを指します。EOS(End of Sale)やEOSL(End of Service Life)は、販売終了や保守終了の時期を示す用語として使われます。ただし、各用語の意味や段階の順序は、ベンダーや製品によって異なります。
国内外でサイバー空間の脅威は増大しています。ランサムウェア攻撃や標的型攻撃などの手口は年々巧妙化しており、サポートが切れた機器を使い続けるリスクは大きくなっています。
通知を受け取ったら、まず対象機器と該当バージョン、保守区分を突き合わせて、いつまで使えるかを確認します。特に、脆弱性の修正が提供されなくなる時点は必ず押さえておきます。この時期を過ぎて使い続けることは、攻撃リスクを引き受ける判断になります。
サイン2・速度低下とパケットロス
2つ目のサインは、通信の遅延、パケットロス、ポートエラーなど性能面の劣化です。ユーザーからの「最近ネットが遅い」という声も、サインとして扱う価値があります。
性能不足は、機器の劣化だけでなく利用形態の変化でも起きます。実際に学校法人北里研究所の2026年度事業計画書では、オンプレミス中心の利用からクラウドサービス利用の増加に伴い、アクセス量に合わせた回線増強が必要になったとしています[※4]。
性能劣化は老朽化だけが原因とは限りません。設計時の想定を超えるトラフィック、無線チャネルの混雑、設定ミスなども重なります。
まずは遅延、ロス率、CRCエラー、CPU使用率といった指標を継続監視し、経年で悪化していれば機器そのものの寿命を疑う、という順番で切り分けます。
サイン3・故障増加と発熱・再起動
3つ目のサインは、頻繁な再起動、発熱、ファンの異音、ポート不通など物理的な故障の予兆です。ハードウェアからの警告が増えていないかを確認します。
修理費の増加も見逃せません。国税庁のタックスアンサーでは、固定資産の修理や改良のために支出した金額のうち、その固定資産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分は、修繕費として支出した時に損金算入が認められるとされており[※5]、修理費が膨らむ局面は損益にも影響します。
個体差はありますが、同じ型番の機器で故障が続いたら、ロット全体の老朽化を疑う必要があります。修理記録、再起動ログ、温度アラートを台帳にまとめ、月次で件数を追います。件数が右肩上がりに増えていれば、更新の検討を始めるサインとして扱う価値があります。
更新タイミング判断チェックリスト
3種類のサインのいずれかが見つかったら、更新するかどうかを5つの観点で採点し、合計点で判断します。ここでは判定項目、配点としきい値、基準の見直し方を順に示します。
5観点の判定項目
更新要否は、保守終了(EOL)、性能、故障、セキュリティ、事業要件の5観点で判定します。各観点を具体的な質問に落とすと、次のような判定項目になります。
- 保守終了(EOL):標準保守または延長保守の終了日が12か月以内に到来するか。
- 性能:ピーク時のパケットロスやCPU使用率が基準値を超えているか。
- 故障:過去12か月で修理・交換・再起動が規定回数以上発生したか。
- セキュリティ:未対応の重大脆弱性や、パッチ提供終了の予定があるか。
- 事業要件:クラウド利用増や拠点統合で必要帯域・機能が変化したか。
保守終了・性能・故障の3観点は、前章の3種類のサインにそのまま対応します。セキュリティと事業要件は、サインとして表面化しにくいため、判定時に追加で確認する観点です。
このうちセキュリティは、リスクの識別そのものが経営課題とされています。経済産業省のサイバーセキュリティ経営ガイドラインは、事業に用いるデジタル環境、サービス、情報を特定し、それらへのサイバー攻撃の脅威と影響度から自組織のリスクを識別することを、経営者が担当幹部に指示すべき事項としています[※6]。保守終了後の機器は脆弱性の修正が届かず、OSやソフトウェアの最新化という基本的な対策が取れなくなります。情報処理推進機構(IPA)は、OSやウィルス対策ソフトの最新化を実施している中小企業は約7割で、情報セキュリティ対策の実施によってサイバーインシデント被害が低減したと発表しています[※7]。
スコアリングと判断基準
各判定項目をイエス・ノーで終わらせず、点数化して合計する形にすると、更新判断のしきい値を組織で共有できます。
配点の例として、5観点それぞれに「該当しない」を0点、「一部該当」を1点、「該当」を2点、「強く該当」を3点として、合計15点満点で評価します。合計が6点未満なら経過観察、6〜9点なら次年度予算で更新検討、10点以上なら即時更新の候補、といったしきい値を先に決めておきます。
合計点とは別に、単独で更新候補とする例外条件も決めておきます。例えば、保守終了日がすでに到来している、未対応の重大脆弱性が公表されている、といった項目が3点であれば、合計点にかかわらず更新候補として扱います。
スコアは自社の重要度で重み付けを変えることが前提であり、年1回は基準そのものを見直します。見直しの枠組みとして、経済産業省のガイドラインは、PDCAサイクルによるサイバーセキュリティ対策の継続的な改善を指示6として位置付け、経営者が対策状況の定期報告を通じて問題の早期発見と改善に努めることを求めています[※6]。会計上も、企業会計基準委員会の企業会計基準第24号は、有形固定資産について従来の減価償却期間と使用可能予測期間との乖離が明らかになったことに伴い新たな耐用年数を採用する場合を会計上の見積りの変更の事例として挙げ、その変更が将来の期間にも影響する場合には将来にわたり会計処理を行うとしています[※8]。
複数拠点での段階的リプレイス計画
更新を決めた後、複数拠点に設置したネットワーク機器を入れ替える場合は、拠点ごとに優先順位を付けた年次のロードマップで段階的に進め、あわせて設計思想を拠点横断でそろえます。
優先順位付けと拠点ロードマップ
複数拠点の機器を一斉に更新すると、予算と作業要員が同じ時期に集中します。そのため、拠点ごとに優先順位を付け、年次のロードマップで段階的に進める方法があります。ただし、全拠点の機器が同じ重大な脆弱性を抱えている場合や、保守終了が同時期に迫っている場合は、一斉更新も選択肢になります。
実際に学校法人北里研究所の2026年度事業計画書では、無線LANを標準とする法人内ネットワーク環境整備の基本計画に基づき、1年目の2025年度に十和田キャンパスと新潟キャンパス、2年目の2026年度に白金キャンパスのネットワークを構築する計画が示されています。概算金額は約5億2669万円です[※4]。
同法人の前年度計画書では、相模原キャンパスをはじめ全キャンパスを対象に幹線ネットワークを増強し、既存棟についても不ぞろいなネットワークを是正して品質差を改善する再整備を行うとしています[※9]。
優先順位は、前章の5観点の合計点に加えて、拠点規模と業務重要度を軸に付けます。初年度に基幹拠点を整え、翌年度以降にサテライト拠点を並べる形が一例です。
自社にリソースが乏しい場合は、外部の力を借りる選択肢もあります。IPAの調査では、中小企業がセキュリティで困った際の相談先は社外のIT関連業者が約5割と最も高く、地域のITベンダーが重要な役割を担っています[※10]。地域のITベンダーを計画立案の段階から巻き込み、拠点横断で共通の仕様書を持っておくと、拠点ごとに設定や構成が異なる状態を避けられます。
セキュリティとBCPを踏まえた設計統一
更新のタイミングは、拠点横断で設計思想をそろえる好機でもあります。単なる機器交換で終わらせず、セキュリティと事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の観点を織り込みます。
対策の範囲は自社の拠点にとどまりません。経済産業省のガイドラインは、指示9としてビジネスパートナーや委託先を含めたサプライチェーン全体の状況把握と対策を求め、国内外の拠点、パートナー、運用委託先を含めた対策状況を把握させるとしています[※6]。
設計思想については、学校法人北里研究所が、従来の法人内外を分けるペリメータ型(境界型)モデルから脱却する必要があるとしています[※9]。
役割分担については、経済産業省が別の資料で、ソフトウェアサプライチェーン上のセキュリティリスク軽減はサイバーインフラ事業者一社では限界があり、事業者が連携し顧客と協調してそれぞれの責務を果たす必要があるとしています[※11]。
更新計画には、拠点間の設定テンプレート統一、認証・アクセス制御の刷新、障害時の代替経路確保など、BCPで問われる観点を先に組み込みます。ベンダーとの役割分担も契約段階から明文化し、障害時に誰が何を担うかを決めておきます。
おわりに
ネットワーク機器の老朽化は、販売終了・保守終了の通知、速度低下、故障予兆という3種類のサインで見つけます。経過年数は減価償却のための耐用年数ではなく稼働開始日からの実運用年数でとらえ、機器種別ごとの寿命観と拠点の環境を突き合わせましょう。
サインが見つかったら、5観点のチェックリストで採点し、しきい値に応じて経過観察、更新検討、即時更新へと段階的につなげます。複数拠点の機器を更新する場合は、優先順位を付けた年次ロードマップと、セキュリティ・BCPを織り込んだ設計統一をあわせて計画しましょう。
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出典
- [*1]National Telecommunications & Information Administration (NTIA)「FACT SHEET: Useful Life Schedule For BIP, CMC, Middle Mile and TBCP Grant Programs」
- [*2]国税庁 「主な減価償却資産の耐用年数表」
- [*3]国税庁 「LAN設備の耐用年数の取扱いに関する質疑応答」
- [*4]学校法人北里研究所 「2026 年度総合事業計画 」
- [*5]国税庁 「No.5402 修繕費とならないものの判定」
- [*6]経済産業省 「サイバーセキュリティ経営ガイドラインVer 3.0」
- [*7]独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 「「2024年度 中小企業における情報セキュリティ対策に関する実態調査」報告書について」
- [*8]企業会計基準委員会 「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」
- [*9]学校法人北里研究所 「2024 年度総合事業計画」
- [*10]独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 「「令和6年度地域ITベンダーのセキュリティ対応能力強化支援業務」報告書について」
- [*11]経済産業省 「サイバーインフラ事業者に求められる役割等に関するガイドライン(案)」